広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter95.多様性

市立芦屋病院事業管理者 佐治 文隆

トランプ大統領は人種・宗教の多様性を否定し、次々と出す大統領令で特定の民族や国家あるいは信教者の入国を禁止したり、移民を排除しようとしているようです。多様性を肯定し、あらゆる人々を受け入れてきた「自由の国アメリカ」は、ある意味世界中の憧れでもあり、じっさい移民は国力の源でもありました。そもそもが移民国家であるアメリカの成り立ちを考えると、テロ防止の名の下に一律に移民を拒否するのは自己矛盾にも思えます。

人は肌の色、言語、人種などだけでなく、宗教や生活様式、嗜好などでも多様性に富んでいます。わが国では最近ヘイトスピーチ対策法の制定、東京都渋谷区の同性パートナーシップ証明書など、多様性を認め、受け入れようとする動きが広まっています。とはいえ、性的マイノリティ(少数者)に対しては、男女平等以上に差別や偏見は根強く思われます。電通の調べ(2015年)では性的マイノリティは7.6%存在し、そのうち約半数がLGBTです。LGBTとは、女性同性愛者(Lesbianレズビアン)、男性同性愛者(Gayゲイ)、両性愛者(Bisexualバイセクシュアル)、性同一性障害(Transgenderトランスジェンダー)のそれぞれの頭文字です。

心と体の性が一致しない性同一性障害者をテーマにした佳作「彼らが本気で編むときは」が上映されています。「かもめ食堂」「めがね」「トイレット」などの話題作を送り出してきた映画監督荻上直子の最新作品です。元男性で性同一性障害者の介護士リンコ(生田斗真)と恋人マキオ(桐谷健太)、マキオの姪で育児放棄された子供のトモ(柿原りんか)が、かりそめの家族を形成した一時期を描いています。並の母親以上にトモを可愛がるリンコは、毎日手の込んだお弁当を作ってトモを送り出します。季節は初夏なのでしょう、ウインナーソーセージを三連の鯉のぼりに見立てて、目やウロコを作って、爪楊枝でつないだおかずも出てきます。映画の後半でサイクリングに出かけたマキオ、リンコ、トモの三人が河原に座って眺めた対岸に、ホンモノの鯉のぼり、それも真鯉、緋鯉に加えて子鯉が泳ぐ姿が、弁当のおかず、リンコの熱望する家族像とオーバーラップし、心憎い演出です。

リンコが一夜病院に入院する破目となり、男性四人部屋をあてがわれます。身も心も女性のリンコにとっては、当然耐えられない状態です。部屋を変えてくれるよう頼むマキオとリンコに、看護師が冷たく言い放ちます。「1日40万円の個室なら空いていますけど・・・」と。芦屋病院ではあってはならないことですが、わたくしたち医療者も多様性に配慮しなければいけないと気付かされたシーンでした。

(2017.5.1)