広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter94.卯の花のすすめ

市立芦屋病院事業管理者 佐治 文隆

睦月(むつき)、如月(きさらぎ)、弥生(やよい)があっという間に過ぎ去り、卯月(うづき)(和暦4月)を迎えました。4月を「卯月」と名付けた理由は、一説には十二支の四番目が「卯」だからと言い、他説には稲を植える月「植月(うえつき)」から転じたとも言われ、最も有力なのは「卯の花の咲く月」を語源とするものです。卯の花はアジサイ科の低木「うつぎ」に咲く花で、この季節に多数の白い花を咲かせます。「うつぎ」は茎が中空なので、漢字では「空木」が当てられています。宮中で神事に使われた卯杖(うづえ)や卯鎚(うづち)は、その字面からてっきり空木で作られたものと思っていましたが、私のまったく思い違いでした。卯杖は柊・桃・梅・柳・棗(なつめ)などの木からなる杖で、卯鎚は桃の木を素材にした小槌で、いずれも邪気を祓う道具として用いられました。

「卯の花」と言えば庶民が真っ先に思い浮かべるのは「おから」です。大豆から豆乳を絞った際の搾カス、文字通り「がら(から)」に丁寧語をつけて「おから」と名付けられました。「から」が「空」に通じてゲンが悪いことから言い替えられて、「卯の花」「雪花菜(きらず)」と呼ばれ、興行界では「空(席)」を嫌って「大入り(おおいり)」などとふざけた命名をしています。日本豆腐協会(2011年)によると、豆腐製造に使われる年間大豆使用量は約49万トンで、水を加えて製造することから約66万トンものおからが発生します。そのうち食料に利用されるのは1%以下で、約90%が飼料や肥料に使われますが、残りの大部分が捨てられます。最高裁判所は廃棄される「おから」を産業廃棄物と判定し(1999年「おから裁判」)、適正に処理するよう義務づけました。したがって豆腐のコストを下げるためにも、環境負荷を減らすためにも、「おから」の食料利用が推奨されます。

搾カスとはいえ「おから」にはかなりの栄養成分が残っています。タンパク質や脂質に加え、食物繊維に富む炭水化物が含まれ、栄養学的には魅力的な食品です。しかもイソフラボン(isoflavone)というポリフェノールの一種が含まれています。イソフラボンは女性らしさを保つホルモンのエストロゲンに似た作用を持ち、植物性エストロゲンとも呼ばれます。欧米人に比べて日本人に骨粗鬆症が少ないのは、豆腐を常食としているからではないかと言われるほどです。植物性エストロゲンは薬物として摂取するエストロゲンに比較し、乳がんなどのリスクもほとんどありません。更年期症状の改善にも有効です。卯の花料理には、すし飯におからを使ってコハダなどのネタをのせた卯の花鮨なども凝っていますが、定番はやはり炒り煮でしょう。家庭料理なのでおふくろの味の一つです。美味しくするコツは、水分をとばすこと、よい出汁を使うこと、具を工夫することに尽きるようです。

卯の花の開花は新暦では5月から6月にかけてです。この季節はせっかく咲いた卯の花も腐らせてしまうほどの「卯の花腐し(うのはなくたし)」といわれる長雨の季節でもあります。今のうちに陽春をうんと楽しみましょう。

(2017.4.1)