事業管理者のつぶやき
Chapter87.やきもの
市立芦屋病院事業管理者 佐治 文隆
私の前任地である広島県呉市の瀬戸内海を挟んで対岸は四国愛媛県松山市です。高速艇で1時間と以外に近いので、何度か松山に行く機会がありました。海を挟むとは言え広島と愛媛は隣県なので交流も多いせいか、例えば広島市に本店のあるベーカリー「アンデルセン」のショッピング・ポイント(シール)を貯めると、もらえる景品には愛媛県産のやきもの「砥部焼」の食器が含まれていたりします。それまでやきもの(陶磁器)と言えば、瀬戸、美濃、有田、信楽、九谷、丹波立杭、備前くらいしか知らなかったので、砥部焼の名は初耳でした。
一口にやきものといっても土器や炻器(せっき)を除けば、一般的に陶器と磁器に大別できます。陶器は陶土(粘土)を主体に800度から1200度の窯で焼かれ、製品は光を通さず、吸水性・多孔性なので耐水性を増すために釉(うわぐすり)が使われます。代表的なのは瀬戸焼です。一方、磁器は陶石を砕いた石粉を原料とし、陶器より高温で焼いたもので色合いが白く、半透光性で水を通しません。砥部焼は愛媛県砥部町の後背地で得られる陶石を原料に作られた磁器です。厚手の白磁に藍色の手書きの図柄が特徴で、決して派手ではないですが重量感があります。どちらかといえば藍色を使ったマイセン磁器に近い感じでしょうか。
砥部焼産地を訪れる機会がありました。松山市中心部から車で20分も走るとそこは山あいの砥部町です。「清流とほたる 砥部焼とみかんの町」をキャッチフレーズとする人口約2万人の静かな町です。町おこしの流れに乗ってか、古民家を改造した小洒落たカフェも散見されます。地酒の酒蔵カフェは酒蔵をそのまま店舗とカフェにし、甘辛両方を提供しています。天然の巨木の幹を利用した酒麹の絞り機などアンティークな機具を店主の説明で聞くのも楽しさを増します。もちろん砥部焼の店舗や約100軒の窯元も点在しています。砥部には大量生産を手がける窯は少ないようで、家内工業で個性的な窯元が多いように見受けました。窯元によっては、お客が器をひねったり、絵付けをしてマイ砥部焼を創ることもできます。町が誘致した窯業団地の中にフィリピン人Aさんのギャラリーを訪ねました。砥部焼職人の夫と知り合い、21歳で来日し、27歳で陶芸を始めた女性です。今では20歳の息子と作陶に没頭しています。各種食器は言うまでもなく、磁器を超えてクッションやスマホケースまで創作を拡げています。何といっても白磁に描かれるパステルカラーの花、野菜、鳥などは、従来の砥部焼のイメージを打ち破っています。さすが各種展覧会で入選、賞を得ているだけのことはあります。
イギリスのEUからの離脱問題に代表されるように、昨今ナショナリズムの台頭から移民排斥が話題となっています。日本人もそのルーツを辿れば民俗学的に単一とは考えにくく、少なくとも5種族の文化が渡来したとされます。明治以後も貪欲に西洋文明を飲み込み、外国人とその文化に寛容であったことがわが国の現在をもたらしたと言えます。少子化がもたらす労働人口の減少等を考えると、日本への移住外国人を積極的に受け入れ、同化していくことこそ今世紀の課題ではないでしょうか。Aさんの南国的なデザインを鑑賞し、思いを巡らしました。
(2016.9.1)