広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter86.切手

市立芦屋病院事業管理者 佐治 文隆

ある一定の年代以上の人は、切手の収集に手を染めた経験が少なからずありませんか。かく言う私も小・中学生の頃はコレクターで、自分で買う以外に友人たちと交換したりして集めました。祖母や母からもらった戦前の切手やら、趣味週間の切手「ビードロ」や「写楽」などを後生大事に収集帳に保管したものです。中でも切手趣味の週間記念「見返り美人」は形も大判で人気が高く、皆の垂涎の的でした。今見ると「ビードロ」や「写楽」の額面は10円、「見返り美人」にいたっては額面5円です。郵便葉書は昭和22年(1947年)までは銭単位で、以後2円、5円と推移して昭和41年(1966年)から7円になり、何度も値上げを繰り返して消費税8%からは52円です。「見返り美人」は1948年発行ですから、当時としては5円でもまあまあの価格だったのです。現在、「見返り美人」は収集家市場で額面の1,000倍以上で取引されていますから、稀少切手と言われるものならとんでもない値がついても不思議ではありません。

世界で最も高価な切手は、英領ギアナで1856年発行の1セント切手と言われ、1枚しか発見されていないことから、もし競売に付されたら数十億円の価格がつくそうです。わずか数センチメートル四方の紙切れが莫大な価値を持つことから、ミステリでは資産隠しによく使われます。(ここからはネタバレになりますが)、オードリー・ヘプバーンとケーリー・グラントが共演した映画「シャレード」では、ヒロインのヘプバーンの死亡した夫が実は大泥棒で、手に入れた25万ドルの金塊を隠していました。金塊の行方を知っていると思われた妻は共犯者たちに追われます。次々と危機に陥るヒロインと金塊のありかをめぐる謎解きのサスペンスは、彼女宛の未投函の手紙に貼った切手が金塊を換金して得たものであったことが判明し、ハッピーエンドを迎えます。ジバンシイ製作の衣装を取っ替え引っ換え着こなす美しいオードリー・ヘプバーンが話題になりました。他にもエラリー・クイーン、ピーター・ラヴゼイなど有名ミステリ作家の作品にも珍品高額切手が登場しますし、石井竜生・井原まなみ夫婦はそのものズバリの「見返り美人を消せ」で切手のウンチクを披露しています。

「切手」と「来て」をかけて「KITTE(キッテ)」と命名された商業施設があります。高層オフィスビルJPタワーとして生まれ変わった東京駅丸の内南口前の旧中央郵便局の一画です。低層5階までの外観は旧郵便局の趣を残し、丸の内ビルディングをはじめとする歴史的建造物を再開発する丸の内ビジネス街のパターンを踏襲しています。日本郵便はこのネーミングの施設を全国的に展開する作戦です。ビルの2・3階に日本郵便と東京大学総合研究博物館の協働によるミュージアム「インターメディアテク」があり、東大の講義室の再現や各種学術標本、研究資料が展示され、エジプトで発掘されたミイラやマッコウクジラの骨格標本なども見ることができます。

明治19年に帝国大学医科大学(現東京大学医学部)の初代精神病学教授となった榊俶(さかき はじめ)の胸像がありました。説明によると東大卒業後眼科の助手をしていたそうですが、ドイツ留学の際にベルリン大学で精神病学を専攻、有名なウイルヒョウ教授のもとでは神経系統の病理解剖を学んでいます。同時期に留学していた森林太郎(鴎外)によれば、「名を榊俶といふ。身の丈高く色白く、洋人に好かるる風采あり。故郷一婦あるをも顧みずして、巧に媚を少女に呈した。」とのことで、なかなかモテタようです。

駅近の入場無料のミュージアムで、東大オリジナルグッズを扱うショップもあり、訪れる価値ありです。

(2016.8.1)