広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter67. 1万年の友

市立芦屋病院 事業管理者 佐治 文隆

最も古い歴史を持つ家畜はイヌで、紀元前1万年頃に飼育されはじめたといいます。ヒツジ、ヤギ、ブタはいずれも紀元前8千年頃に家畜化されました。ウシは紀元前6千年頃、ウマやロバは同じく紀元前4千年頃に家畜化されています。干支の十二支は往々にして動物が当てられていますが、十二の動物の中でも、ウシ、ウマ、ヒツジ、ニワトリ、イヌ、ブタは六畜と呼ばれて家畜です。中国最古の王朝、殷の時代(紀元前1700年頃~紀元前1000年頃)に干支の起源が求められますが、六畜はすでに人間社会では家畜として長い歴史を持つなじみの深い動物だったと考えられます。

人間との付き合いが約1万年にもおよぶヒツジは、大変有益な家畜のひとつです。羊毛はウールと呼ばれ、保湿性、保温性に優れた天然動物繊維として毛糸や毛織物の原料に重用されています。その品質を保証するウールマークは厳しい基準が設けられ、権威ある認定表示です。ウシやブタなどの家畜同様にヒツジの皮もシープスキンまたはヤンピーといわれて利用されます。羊皮には毛付きと抜毛の2種があります。羊毛付きの毛皮で羊毛を一定の長さに刈り込んだものはムートンと呼ばれ、敷物やジャッケットなどに用いられ、羊毛部分が内側のジャケットは防寒衣料として実用性に富んでいます。抜毛羊皮は手触りがよいことから、コートやハンドバッグなど幅広い用途に向けられています。羊皮を紙のように薄く加工した羊皮紙は、紙が出現するまで中世西洋で筆写の材料として従来のパピルスと徐々に置き換わっていきました。現在も特別な文書などに高級材料として使用され、条件さえよければ1000年以上も保存が効くそうです。

羊肉も食材として余すところなく利用されます。羊肉は年齢によって名称が異なります。若い方からラム、ホゲット、マトンと変化し、生後1年未満のラム肉が最も高価で、マトンは生後2年以上を言います。この点、ツバス→ハマチ→メジロ→ブリと成長するにつれ呼び名が変化し、出世魚と呼ばれて成魚ほど旨いというブリなどとは反対です。ホゲットの定義は国によって異なりますが、ニュージーランドでは永久門歯が1本ないし2本の雌または去勢雄の羊肉を指します。いずれにしろ食用としてラムが最も臭みやクセがなく、脂肪も少なく軟らかくて旨味があります。羊乳はチーズに加工されることが多く、フランスのロックフォール・チーズなどがよく知られています。

人類に愛される家畜のヒツジは全世界で実に10億頭を超えて飼育されています。性格が穏和で従順で群れたがり、先導者に従う傾向が強いので、家畜の適性に合致しているためでしょう。言葉を換えると主体性がなく、付和雷同の性質の持ち主と言えます。ヒツジの持つ資質は家畜としては大歓迎ですが、ヒトに置き換えるといかがなものでしょう。今年は未年ではありますが、誤った方向に誘導されないよう、しっかりと各界のリーダーを見つめていかなければなりません。医療界においても然りです。

(2015.1.1)