名誉事業管理者(前事業管理者)のつぶやき
Chapter200.カスタマー・ハラスメント NEW
市立芦屋病院名誉事業管理者 佐治 文隆
多くの業種で、顧客が商品やサービスの瑕疵や不備についてクレームを申し立てることはありますが、これが度を越して暴言・暴力、理不尽な要求、長時間の拘束に及ぶなど、常識を逸脱した行動が見られることがあります。このような迷惑行為を最近ではカスタマー・ハラスメント(カスハラ)と総称し、今年中に企業にカスハラ防止措置が義務付けられる予定です。カスハラは今に始まったことではなく、教育界や医療界ではモンスターペアレント、モンスターペイシェントと呼ばれる人が存在していました。近年のSNSなどを用いた誹謗・中傷の拡散が目に余るため、法律の制定に至ったと思われます。

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ドイツ映画「ナースコール(ドイツ語原題HELDINヒロイン)」は、とある病院の外科病棟における看護師フロリアの遅番勤務を描いています。彼女はこんな看護師ばっかりだったらと思わせる勤勉かつ優秀です。入院患者数は26人、下着の交換、投薬、点滴の準備、食事介助など時間に追われます。合間に看護学生の指導も入ります。外科病棟なのに病欠が一人出たとはいえ、驚いたことにたった二人の勤務体制でしかも相方は経験の浅そうな看護師です。通常業務に加えて手術患者の送り出し(私たちは「オペ出し」と言います)、救急患者の入院受け入れなどひっきりなしに連絡がきます。そこへ持ってきて「お茶を持って来い。いつまで待たせるんだ」と怒鳴る患者、「定時の投薬時間が過ぎているのに薬がまだ届かない」と喚く患者、禁煙を守らず注意したら罵り倒す女性、患者の娘がニューヨークから国際電話をかけて来て、直ぐに母親を電話に出せ」と無理難題を突き付けます。手術中の主治医に「今すぐ会わせろ、説明が聴きたい」という家族。その主治医は手術が終わったら、「もう勤務時間が過ぎたから」と患者たちに会わずにさっさと帰宅してしまいます。いずれも私たち医療者にとっては「病院、あるある」の出来事ばかりです。
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時間に追われ、時間との闘いが続く激務に、カスハラを受けキレそうになる(事実キレるシーンも)フロリア、投薬ミスを起こしたり、患者の死亡に間に合わなかったりして落ち込むフロリアを見ても、責める気になりません。医療ドラマは私たちから見るとえてして嘘っぽい作品が多いのですが、この映画は細部にわたるまで医療現場をリアルに描いています。医療者以外の一般の人々に是非観ていただきたいと思いました。
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モンスターペアレントを取り上げたのが、三谷幸喜作・演出の舞台劇「いのこりぐみ」です。小学校の教室、放課後に二人の教師が面談のため残っています。教頭の相沢一之と若手教師の小栗旬です。そこに問題の母親、菊池凛子が現れます。彼女は何かにつけて学校にクレームをつける札付きのモンスターマザーです。教師の言葉尻を捉えては、ああ言えばこう、こう言えばああと理屈をつけて引き下がらない、イヤな女です。今回は息子が担任の女教師、平岩紙に嫌われているから、受け持ちを代えろと主張します。教頭はなるべく穏便に済ませようと言葉を尽くします。そこに担任も現れ、若手教師は両者の言い分を公平に聞こうとしますが、母親は頑として言うことを聞かず、一方担任は理路整然と言い分を述べ、話し合いは平行線をたどります。観客は無理無体な菊池凛子の態度に不快感を覚えるほどです。ところが小栗旬が些細な事象に気がつき、ここから事態が大転換、まるでミステリーのような展開を見せます。これ以上はネタバレになるので控えますが、ハラスメントと一概に切り捨てるだけでなく、よく考察しないと真相は判らないと反省させられるドラマでした。
達者な名優4人だけの登場人物が、一幕100分間議論を続けて、観客を息を継がせず引っ張る秀作に、三谷幸喜の面目躍如と感銘しました。
(2026.3.18)