名誉事業管理者(前事業管理者)のつぶやき
Chapter193.イエネコNEW
市立芦屋病院名誉事業管理者 佐治 文隆
人はペットへの好みで、ネコ派とイヌ派に大きく分類されるといいます。アンケート結果ではイヌの方が好きな人は50%を超えていてネコの方が好きな人は約4割だそうです。私の育った家庭はイヌ派だったようで、いつも数匹のイヌがおりました。しかし母がペット好きのせいもあってか、ネコも常時1匹飼われていました。ネコは運動機能が良くて体のバランス感覚が抜群なものですから、高いところから落ちても、ひらりと四つ足で立てます。子供の頃は面白半分に飼いネコを高所から落として遊んだこともあります。今考えると動物虐待です。反省しています。
![]()
ネコの祖先のヤマネコは、ヨーロッパヤマネコ、中近東のリビアヤマネコ、中央アジアのヤマネコ、南アフリカのヤマネコ、ハイイロネコの5系統に分類され、私たちと共に暮らすイエネコはリビアヤマネコに分類されます。DNA解析からこのことが判明したのはわずか18年前(Science誌、2007年)のことといいますから驚きです。十数万年前に中近東で生息していたリビアヤマネコが、一万年前に農耕が盛んであった当地で、穀物のネズミ被害を防ぐため家畜化されたといわれます。わが国へは6世紀半ばに来たと思われますが、少なくとも平安時代には書物にネコの記述が見られます。
![]()
ネコが好きでネコ研究に没頭し、理学博士号まで取得した人がいます。元々ファション誌の編集者で、社会人大学院生としてネコ研究の世界に飛び込み、博士論文執筆のために200篇以上のネコ論文を読破した服部円です。彼女の著書「ネコは(ほぼ)液体である〜ネコ研究最前線」(子安ひかり監修、KADOKAWA)では、ネコに関する学術論文39篇の概要を紹介し、解説しています。「ネコは自分の名前を知っている」とか、「飼い主の声や感情を理解している」などという、ネコを飼った経験があれば体感していることも、科学的研究方法・証明結果が紹介されます。ネコの味覚研究では舌にマグロのうまみを感知する受容体が発現していて、マグロ好きの遺伝子を持つことも判明しました。キャットフードを選ぶときの参考になります。ネコの舌の乳頭突起にはストローを縦半分に割ったような空洞があり、グルーミングに適した構造になっていることも解明されました。ネコに舐められると舌がザラザラなこと気付きますが、起きている時間の四分の一を費やす毛づくろいに効率的な仕組みです。「子ネコの性格は父ネコに左右される」とか、「避妊手術を受けた雌ネコや去勢手術を受けた雄ネコは大きな有意差で寿命が伸びる」など私も初めて知りました。
![]()
著書の表題「ネコは(ほぼ)液体である」は、2017年にイグ・ノーベル賞物理学賞を受賞した論文「ネコの流動学について」を参考にして命名されています。ネコは箱やガラス瓶、カゴなどいろいろな容器に入り、自在に形を変えられます。これは体積が一定であっても、形を容器に合わせて変化するという液体の定義に合致します。さらにネコと水面の不親和性や壁への粘着性などの液体の特性を持っていることもネコが液体である証拠だと、受賞者のマーク・アントワン・ファルダン氏は主張しています。ノーベル賞のパロディーであるイグ・ノーベル賞に相応しい「笑わせる研究」です。
![]()
私の友人に何匹もの高価な愛猫のために専用の大きな部屋を作ったネコ好きがいます。国内外のネコ好き有名人も数多くいますが、作家では夏目漱石やアーネスト・ヘミングウェイが含まれます。アメリカ留学中に、マイアミからフロリダ半島の先端まで、有名な観光スポットである海上の長大橋セブンマイル・ブリッジをドライブし、ヘミングウェイがかつて住んだフロリダ州キーウェストの家を訪れました。ヘミングウェイの旧家では彼が愛したネコの子孫たちがわが物顔で暮らしていました。ヘミングウェイの愛猫は脚の指が6本ある多指症のネコで、常染色体優勢遺伝します。旧家で見かけたネコが多指症だったかどうか、残念ながら気がつきませんでした。ネコにまつわる私の思い出の一つです。

(2025.9.11)