事業管理者のつぶやき
Chapter189.芦屋病院に描く夢 NEW
市立芦屋病院事業管理者 佐治 文隆
私は市立芦屋病院に事業管理者として着任する前に、大阪大学医学部附属病院、大阪府立成人病センター(現大阪国際がんセンター)、国立病院機構呉医療センターに勤務してまいりました。いずれも、提供する医療や看護レベルも高い病院ばかりです。どの病院にも患者さんやご家族のご意見をいただく「ご意見箱(投書箱)」が設置されていました。規模の小さな芦屋病院でも同じです。幹部職員の一人として、これらのご意見にはすべて目を通すようにしてきました。そこで芦屋病院にいただくご意見が、これまで勤めた病院と全く違う傾向にあることに気がつきました。投書に「苦情」「要望」が圧倒的に多いのは、病院に限らずどの企業でも同じだろうと想像できます。しかし、芦屋病院では「感謝」や「お礼の気持ち」を表した手紙が圧倒的に多いのです。もちろん、厳しいご意見も頂戴しますが、それにもまして感謝が溢れているのです。
芦屋病院が特別な高度医療を行なっているわけではなく、看護師をはじめ職員も接遇には気をつけていますが、その点は他病院でも同じです。私が勤めてきた病院でも患者さん達には感謝されてきたように思います。しかし芦屋病院の患者さん達は、その感謝の気持ちを表すのに文字に託される方が多いのだと気づきました。気持ちを文字にして表現するということは容易なことではありませんし、これができるのはやはり知的レベルが高い方が多いからだと思います。「嬉しければ感謝する」、「ありがたければお礼を言う」など当たり前のことを手間をかけて文章にできるのは、やはり教養や知性が自ずと滲み出ているからでしょう。芦屋病院を受診される芦屋市民をはじめ近隣住民の知性の高さを示しています。新たに芦屋病院に入職する医師との面談の際、私は当院の患者さんのこのような特性を話し、接遇を重視して病状説明など詳しく丁寧に行うように指示してまいりました。
市民病院として、芦屋市や近隣市の住民に病院を理解し、親しみを持っていただくために、がん征圧月間の9月にルネサンスクラシックス芦屋ルナホールで、「がんフォーラム」(のちに「健康フォーラム」と改名)を開催し、毎年数百人が来られます。秋には「ホスピタル・フェスタ」と名付けて、一般市民に病院を開放して、公開講座、健康チェックなどを行いました。腹腔鏡を使用してのお菓子の掴み取り、薬包機を使ってのドロップやゼリービーンズの一包化、医師や看護師のキッズ用ユニフォームの試着が、家族連れの人気を呼びました。本コラムも、私の拙文を通して少しでも芦屋病院に親近感を持っていただけたらという思いで、病院ホームページに連載を始めました。16年の長きにわたり、お読みいただいたみなさまに深く感謝いたします。
国際文化住宅都市芦屋の市民病院に相応しくありたいと、職員対象の医療英会話教室を始め、コロナ禍もめげずリモート授業に変更して、現在も続いています。姉妹都市モンテベロ市のビバリー病院とは看護師の交換プログラムを行ったこともありました。互いの看護師がホームステイして、病院見学・交流を行えたのは成果でした。
在任16年間でもっとも大きく印象に残るイベントは、「病院更新築」と「新型コロナウイルス禍」でした。新築にあたって移転案もあったのですが、六甲山麓の風光明媚な現在地を捨てがたく、現地建て替えを主張しました。新病院は「芦屋らしさ」を全面に出し、「クリーン&グリーン」「プライバシー&アメニティ」重視のコンセプトで、差別化を図りました。一方、コロナ・パンデミックは病院に大きな試練を与えました。新型コロナウイルスの感染リスクの中、職員は身を挺して治療・看護に尽力し、クラスターを起こすことなく危機に対応しました。完全陰圧のコロナ専用病室を設置し、一病棟を専用病棟に転換するなど、入院を必要とする市民を受け入れました。また高齢市民のワクチン接種に地下駐車場を使用し、1日200名に接種するなど病院を挙げて感染対策に取り組みました。当院医療従事者からはコロナ感染を恐れての退職者は1名も出ませんでした。
医療はますます高度化する一方で、医師の働き方改革・診療科における医師の偏在等々、公立病院・公的病院における課題は山積しています。「選択と集中」は時代の流れで、阪神間においても公立・公的病院が統廃合し、総合医療センターが生まれる予定です。このような状況下で芦屋病院のビジョンをどう描けばよいのでしょうか。高島崚輔芦屋市長のモットーである「世界で一番住み続けたい芦屋を創る」ためには、市民が気軽に受診できる「芦屋らしい病院」は必須だと考えます。小規模ではありますが一定の医療レベルを保ち、高度医療機器も備える医療機関を芦屋市で所有することは、財政的なリスクを上回るメリットも大きいと考えます。セーフティネットとしての有用性は阪神淡路大震災やコロナパンデミックにおいて証明されたところです。医師・看護師・薬剤師をはじめ国家資格を有する多数の人材が、市職員として勤務することは市政のシンクタンクとしても貴重です。
芦屋病院の職員が自己研鑽に努め、市民から愛され、親しまれ、頼られる病院を持続できるように心から願い、永年のご支援への感謝の言葉といたします。
(2025.3.1)