事業管理者のつぶやき
Chapter187.2025年問題 NEW
市立芦屋病院事業管理者 佐治 文隆
コンピューターの「2025年問題」をご存知ですか。2025年は昭和100年にあたり、元号「昭和」を使っているパソコンのプログラムでは昭和100年を昭和0年と誤認識するのでは無いかと懸念されました。元号による年表記が一般的な公文書などでは、これまで元号が変わった時に抜本的改修を行わず、昭和のまま年数カウントを継続して、印刷や表示するプログラムだけを修正し新元号に対応させる方法が採られてきました。その結果「年数処理に起因するシステム障害」が起こり得ました。この問題は日本特有の現象であるためあまり知られていませんでしたが、業界では危惧されていました。
この話題が耳に入った時に「2000年(Y2K)問題」がデジャブのように蘇りました。コンピューターシステムをはじめから西暦4桁にしておけばよかったのですが、データ容量節約のために下2桁だけで扱っていたため、2000年になった時「00年」となり、「1900年」とみなして誤動作が起こるといわれました。多くの会社では誤作動に備えてエンジニアが泊まり込みました。深夜運転するJRや私鉄各社はすべての列車を最寄駅に停車させました。航空機も然りです。当時勤務していた大阪府立成人病センター(現大阪国際がんセンター)でも幹部職員が大晦日から元旦にかけて泊まり込みました。オーダリングシステム(電子カルテシステムは未導入)やコンピューター搭載医療機器の不具合発生に備えて、コンピューターに素人の私も世紀末を病院で過ごす羽目になりました。結果的に大きな混乱やトラブルがなかったのは、今回の「2025年問題」同様です。その影には膨大なプログラムを変更した「蛇の道は蛇」のプロフェッショナル達の尽力が功を奏したのでしょう。
さらにIT業界では「2025年の崖」と言う言葉が注目されています。「2025年の崖」とは多くの企業の業務で使われている既存のITシステムが複雑化・老朽化・肥大化・ブラックボックス化し、時代に合わせたビジネスモデルで使いづらくなり、国際競争力を失い、経済停滞になってしまう問題です。2018年に経済産業省がまとめたレポートで問題提起しました。多くの企業では長い期間をかけて、それぞれの部署・部門が場当たり的にカスタマイズを重ねてきた結果、伏魔殿状態(カッコよく言えばレガシーシステム)となり、情報共有ができなくなって莫大な経済損失を生むといわれます。レガシーシステムを構築したエンジニアが第一線から退く2025年が、システム刷新最後のチャンスと言われる所以です。
社会福祉の分野の「2025年問題」は、団塊の世代が後期高齢者になり、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上という超高齢社会の到来です。医療・介護需要の増大が予測される一方で、従事する若年労働者の減少も相俟って大きな社会問題になると予測されます。働き方改革に伴う医療従事者の不足、医師の地域偏在・診療科偏在が拍車をかけます。財政悪化の対策として、高齢者に対する健康保険料・介護保険料の増額、自己負担額の増加などが画策されていますが、効果は未定です。地域医療・介護を総合的に確保するため地域包括ケアシステムが発足していますが、今後はシステムの効率的運用が課題でしょう。とはいえ、私達の使命は安心で質の高い医療を提供することです。
今年は巳年です。ことわざに「藪医者の薬箱と蛇の足は見た者がない」(藪医者は患者にどんな薬を用いているのやらわかったものでない)とあります。いつまでも良医でありたいものです。
(2025.1.1)