広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter177.痛み

市立芦屋病院事業管理者 佐治 文隆

病気には痛みを伴うものが少なからずあります。患者さんが伝える痛みの表現には、たとえば「お腹がシクシク痛む」などオノマトペがしばしば使われます。ある研究(杉村 泰「言葉の科学」2017)では痛みを表すオノマトペを、「ガンガン」、「キュンと」、「キリキリ」、「キンキン」、「シクシ ク」、「ジンジン」、「ズキズキ」、「ズーン」、「チクチク」、「ツーンと」、「ドーンと」、「ヒリヒリ」、 「ビリビリ」、「ピリピリ」、「ミシミシ」 の15種もに分類していました。英語でも痛みに関してオノマトペ的表現があります。「throbbing」は頭痛や歯痛などの「ズキズキする」痛みを表し、カナヅチで頭を叩かれるような「ガンガンする」頭痛は「pounding」といいます。足や手などの「ジンジンする」痛みは「tingling」、お腹などの「キリキリした」痛みは「stabbing」と表現します。「チクチクする」痛みは「pricking」、「ヒリヒリする」痛みは「sting」とそれぞれ表します(アン・クレシーニ「オノマトペ英語」)。この他「sting」(ズキズキする)、「tingle」(ピリピリする)、「twinge」(キリキリする)なども使われます(長谷川ミサ子「英語における痛みの表現について」)。

痛みにはそれぞれ強さがありますが、これを客観的に評価する試みもなされます。よく用いられる方法として①ビジュアル・アナログ・スケール(VAS: visual analogue scale)②ヌーメリック・レイティング・スケール(NRS: numerical rating scale)③フェイス・スケール(face scale)があります。①は紙の上に10cmの線を引いて、左端に0(全く痛みなし)、右端に100(今までで一番強い痛み)と書き、痛みの程度を0〜100のどの辺りかで評価します。②は直線を0(痛み無し)から10(最悪の痛み)まで11段階に分け、数値を示してもらいます。③では痛みがない0(ニコニコ顔)から最も強い痛み5(痛くて泣き顔)までの6段階の人の表情によって痛みの程度を評価します。いずれも多少の主観が加わることは否めませんが、痛みが軽減あるいは増悪している状況変化の評価には信頼できます。

痛みを伴う疾病のひとつとして、身体の免疫力が低下した場合に水痘・帯状疱疹ウイルスが活性化して発症する帯状疱疹は、頑固な神経痛を起こすことでよく知られています。水疱などの皮疹が出る急性期の痛みだけでなく、皮疹消失後も続く帯状疱疹後神経痛はかなりの苦痛を与えることで知られています。「焼けるような痛み」「刺すような痛み」といわれ、患者さんの多くは「ヒリヒリ」「チカチカ」「ズキズキ」と表現しています。重症の帯状疱疹患者、高齢者、女性はとくに帯状疱疹後神経痛に移行しやすいとされ、要注意です。帯状疱疹後神経痛は皮疹消失6ヶ月後をピークに持続するといわれ、なかには一生痛みが継続する人もいます。リスクのある高齢者には積極的に帯状疱疹ワクチン接種が推奨される所以です。

痛みを訴える患者さんへの対応ですが、まず原因疾患の診断とその治療が優先されます。例えば帯状疱疹であれば、抗ウイルス薬による治療です。しかし帯状疱疹後神経痛のような状況になれば、鎮痛剤服用や神経ブロックなども必要となるので、ペインクリニックなどの専門医による治療をお勧めします。

(2024.3.1)