広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter175.龍宮

市立芦屋病院事業管理者 佐治 文隆

 今年の干支は辰で、実在しない架空の動物の龍(竜)であらわされます。龍は古来中国で権力の象徴とされ崇められています。そのルーツはインド仏教における蛇神ナーガが中国に伝えられ、龍あるいは龍王と訳されたと思われ、海中や水中の龍宮に住んでいるといわれました。中国では仙人たちが暮らす理想郷は海の果てにあると想像されていたことから、海中の竜宮城を訪ねる浦島太郎伝説は、中国の民話などを下地に日本化されたものと思われます。類似の物語は日本各地に存在し、いずれも恩返しに宝物をもらうパターンが多く見られます。

 「龍宮」を「リュウグウ」と書くと小惑星になります。2014年に地球を飛び立った小惑星探査機「はやぶさ2」は2018年に目的地「リュウグウ」に到達、2回にわたりサンプル採取に成功し、2020年に帰還してサンプルを入れたカプセルを投下後、新たな小惑星に向かうミッションに旅立ちました。多くの日本人が固唾をのんで見守り、その快挙に感動したのはまだ記憶に新しいところです。2015年、それまで公式には小惑星番号「162173」と呼ばれていた「リュウグウ」は、小惑星センターから「Ryugu」の正式名称を与えられています。これに先立ちJAXA(宇宙航空研究開発機構)が名称の一般公募を行い、浦島太郎の物語で玉手箱を持ち帰るストーリーが「はやぶさ2」がサンプル入りカプセルを持ち帰るプロジェクトと重なることや、この小天体に水を含む岩石があると期待されていて、水を思わせる名称であることなどから「リュウグウ」を選定したといいます。「リュウグウ」の地形にも、「リュウジン尾根」や「オトヒメ岩塊」など浦島太郎にちなんだ命名がいくつかみられます。

 「リュウグウ」で採取されたサンプルは国際研究チームで分析途上とのことですが、これまでに水、アミノ酸、希ガス、炭酸水など種々の物質とそれらの起源を示す情報が見つかっています。今後多数の小惑星のサンプル解析が行われると、レアメタルなど貴重な資源が発見できるかも知れません。アメリカの宇宙資源開発ベンチャーの中には、こうした小惑星を地球近傍まで輸送して資源を採掘する、いわば「小惑星丸ごとお持ち帰り計画」を立てている企業もあるそうです(光文社新書「宇宙ベンチャーの時代 経営の視点で読む宇宙開発」小松伸多佳・後藤大亮著)。同書によれば、さまざまな小惑星の価格を公表しているアステランク(Asterank)社から、リュウグウは828億ドル(1ドル140円換算で約12兆円)と評価されています。興味があればサイトを覗いてみてください。

 月の土地もまた売りに出されています。ルナ・エンバシー社が1エーカー(約4,000平米)を1万円以下で売っています。創業者が「月は誰のものか?」の疑問を持ち、法律を徹底的に研究した挙げ句、宇宙に関する法律は1967年に発効した宇宙条約しかないことを突き止めました。この条約では国家の所有は禁止していても、個人の所有には触れられていないことから、所有権の申し立てを行い受理されました。まさに法の盲点をついてビジネスにしたわけです。月の土地の売買は少しいかがわしい気もしますが、世界では今や多数の企業が宇宙ビジネスに取り組んでいます。ヴァージン・エアーのリチャード・ブランソン氏、アマゾンのジョフ・ベゾス氏、テスラーのイーロン・マスク氏といった億万長者がいずれも民間宇宙旅行ビジネスに参入しています。また自身も自社の機体で、短時間とはいえど宇宙旅行を体験した大金持ちも含まれます。

 ハードだけではありません。何千個もの人工衛星が地球を周回し、それぞれがデータを送ってくることから、その膨大なデータを活用するソフトもまたビジネスにつながります。ウクライナ戦争の戦況がリアルタイムで知らされ、石油や株価に影響を与えるのを目の当たりに見てきました。農作物の作付けや収穫状況の観測は商品市況を左右できます。軍事、民事にかかわらず、宇宙ビジネスは今後も発展し続けるでしょう。人類の叡智がこれを平和利用に活用することを望みます。

(2024.1.1)