事業管理者のつぶやき
Chapter169.童心にかえって
市立芦屋病院事業管理者 佐治 文隆
今年の5月の連休はほぼ晴天が続き、コロナ禍の閉塞感の反動もあってか、街中も行楽地も人出で溢れました。私もつい浮かれて、たまたま西宮でかかっていたサーカスに出かけました。工場跡地の空き地に仮設された会場は、呼び込みの音楽が大音響で流れる昔ながらの大テントでしたが、予約したチケットをスマホのQRコードを読み込んで発券するなど、さすがに現代風になっています。「ポップサーカス」は、「木下大サーカス」(本部・岡山)に次いで日本4大サーカスの一翼を担うサーカス団で、本拠地は大阪です。ちなみに他の「ハッピードリームサーカス」、「さくらサーカス」も本部はそれぞれ大阪、和歌山でなぜか関西優位です。
リングマスターの「It’s showtime!」の掛け声で始まる演技は、ジャグリング、人間がトランポリンのように飛び交うアフリカン・ハンド・ヴォルテージ、マジックのように人が消えるイリュージョン、大きく回転するマシーンの両端の回転輪の内外でコマネズミのように駆け回るデスホイールと続きます。ブロンド美女が次々と一瞬で衣装を着替えるマジック、クイックチェンジもありました。基本的にライオンやゾウなどの猛獣、大動物は出演しないようで、唯一現れたのはぬいぐるみを着た子犬の演技でしたが、それはそれで可愛く、会場の笑いを誘っていました。鍛えた体で見せるパーフォーマンスはさすがで、布ひとつにぶら下がって空中でカップルが旋回するリボンアクロバットやハンドtoハンドなども凄技です。
中国人風の衣装をまとった少女たちが驚くほど高い一輪車に乗って、バランスをとりながら頭上に乗せたお椀を互いにやり取りする高車踢碗では時にうまく受け止められないこともあり、それはそれでご愛嬌なのですが、あとで子供たちが叱られないかと心配になります。高車踢碗の少女やアフリカン・ハンド・ヴォルテージの少年を見て、子供時代に聞いた「子取りに取られてサーカスに売られるで!!」を思い出しました。昭和の時代、夕方遅くまで遊んでいると親が「子取りに拐われ、サーカス団に売り飛ばされ、酢を飲まされ、骨を軟らかされて、曲芸させられる」などと、まことしやかに子供を脅していました。ポップサーカスのパーフォーマーたちのほとんどが外国人なのにも驚きました。日本人はもうサーカスの演技のような厳しい訓練には精神的にも肉体的にも耐えられなくなっているのかと心配です。それともこの世界はグローバル化が進んでいるのでしょうか。
記憶を辿ると最後にサーカスを見たのは、1980年代のアメリカ留学中でした。当時、世界3大サーカスのひとつと言われたリングリング・ブラザーズ・アンド・バーナム・アンドベイリー・サーカスが近くに巡業に来たので、幼い子供たちを連れて出かけました。ゾウやトラやウマなどを多数使った迫力あるショウでしたが、動物愛護団体の批判を受けて2017年に150年の歴史を閉じて廃業しました。このサーカス団の謳い文句が「地上最大のショウ(The Greatest Show on Earth)」で、同名の映画が1952年にセシル・B・デミル監督で制作され、アカデミー作品賞を受賞しています。サーカス団の花形をめぐるイザコザや恋愛などさまざまな人間模様が、サーカスの演技とともに描かれる大作です。発端は空中ブランコの大スターの招聘に始まり、安全ネットを外した演技での事故も物語のキーポイントになっています。サーカスといえばやはり空中ブランコは目玉商品なのですね。ポップサーカスでもパーフォーマンスのトリを務めたのは空中ブランコで、華麗な演技を楽しみました。もちろん安全ネットはしっかり張られていました。
(2023.7.1)