事業管理者のつぶやき
Chapter16. 建築家のタマゴ
市立芦屋病院 事業管理者 佐治 文隆
某女子大学建築学科の設計演習発表会に、外部講師として招かれる機会がありました。課題が「病院設計」ということで、医療関係者の立場からのコメントを求められました。芦屋病院がまさに建て替え新築の最中にあるこの時期、若者の病院に持つイメージを知るためにも、良いチャンスと思って応じました。課題は、西宮市今津港に面する敷地の老人福祉施設に隣接した土地に、小規模病院を設計する設定です。海辺ではありませんが、和風園や聖徳園など老人施設に隣接する芦屋病院にとっても興味がもたれる立地条件です。
発表は4年次の学生一人ずつが、それぞれの作品について、そのコンセプト、外観バース、設計図について説明し、教授や講師あるいは他の学生からの質問を受けるスタイルで行われました。私は中間発表と最終回の発表に参加しましたが、最終回では完成模型も展示され、本格的なものでした。それぞれの作品は学生の個性がよく現れていて、楽しく拝聴しました。制作にあたっては事前に病院見学などでよく勉強したこともうかがわれました。もっとも医療については門外漢ですから、私の目から見れば問題点もあるわけで、個々にコメントを述べました。学生たちが期待する病院はやはり「癒し」の場で、そのための屋外庭園、カフェ、患者ライブラリーなどの取り入れが目立ちました。入院経験のある学生たちは、「病院は退屈なので、もっと動き回れるスペースが必要」と口をそろえて言います。実際には高齢者が大半を占める当院などでは、あまり聞かれない意見です。「霊安室が暗くて陰気だったから、うんと明るい設計にしてみた」という学生は、病院で親族が亡くなった経験者なのでしょう。新病院に活かしたいアイデアと感じました。
講評会で、私からは「診療機能や動線を考えた立体的な設計」「適正な看護単位を考慮した病室配置」「患者だけでなく職員満足度も向上させる設計思想」などを要望しました。もう一人の外部講師の大手建設会社プロポーザル本部長は、さすがにプロの建築家らしく、建築構造上の問題点など専門家の視点でコメントしたうえで、「医療施設であっても日常通り快適な生活をおくることの重要性」「増築の可能性を考えた計画」などをアドバイスされました。最終講評会での発表では、中間講評の時に比べて格段の進歩が見られ、中には舌をまくような素晴らしい出来映えのデザインをもつ作品も提示されました。
講評を終えるにあたって、私から建築家のタマゴたちにお願いしました。人生には、「したいこと」「しないといけないこと」「してはいけないこと」の三つがあります。いま、若いあなた方は「したいこと」は何でもどん欲にチャレンジしてください。いったんプロの建築家になった以上は、今度はクライアントに好き嫌いを言わずに「しないといけないこと」があるはずです。しかし、建築の法律に背くような設計や顧客の利益を損なうような施工は決して「してはならないこと」です、と。
何事においても、「Will(意志)」は「Skill(技術)」を上回ります。技能の研鑽を積むことは大切ですが、それを生かすも殺すも強い意志の持ち方ひとつでしょう。私たちの職場にも通じます。
(2010.10.1)