広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter146.オノマトぺ

市立芦屋病院事業管理者 佐治 文隆

「オノマトペ」(onomatopoeia)は使用するシーンによって擬音語、擬声語、擬態語などと訳されますが、私達も意識することなく日常茶飯事に利用しています。擬音語としてイヌが「ワンワン(英語ではbow-wow)」吠える、擬態語として「ヨボヨボ」歩く、などがオノマトペの例に挙げられます。数ある言語の中でもとくに日本語はオノマトペが豊富な言語と言われています。展示室ごとにオノマトペを付けたユニークな展覧会が兵庫県立美術館で開催されました。芦屋市在住の国際的ファッションデザイナー、コシノヒロコさんの作品展「TO THE FUTURE 未来へ」展です。

「フワフワ」と名付けられたエントランス天井には、巨大な風船ヒロコ人形が浮かび、訪問者を出迎えます。続く大階段には20体のマネキン人形が「ペチャクチャ」と賑やかにご挨拶です。いずれもコシノ・コレクション選りすぐりのファッションを身につけています。そして「onomatopoeia 84」の展示室には、彼女の過去84年間を振り返る歴史を、「ジグザグ」「ルンルン」「メラメラ」「ウキウキ」「ヨチヨチ」「ハラハラ」「ドキドキ」「ビューン」「ビリッ」など時代々々のエピソードをかたる写真や作品などで明らかにしています。人生の各シーンをオノマトペで表現する面白い企画です。「ルンルン」では初期のカラフルな作品群を集めています。デフォルメした人物画、驚くばかりの色使いは、マネキン7体が纏う2014〜2020年のコレクションにも反映され、一歩踏み入れるだけで気分がルンルンと浮き立つ展示室です。

続いて現れるのは一転して墨絵の世界です。たっぷり含まれた墨汁が筆の勢いで、ときには飛び散り、ときには掠れてキャンバスやコスチュームに自在にデザインされ、「ビュー」と音が聞こえてきそうです。ここでは白と黒のコントラストを効かせた2000年以降のコレクションが紹介されています。シックな中にも大胆なパターンや素材の違いで変化をつけるなど、日本人ならではの墨絵のモチーフを世界に通用させる力量はさすがです。「ニョキニョキ」のコーナーではマネキンの脚が文字通りにょきにょきと壁から生えています。それぞれが色鮮やかでデザインまちまちのカラータイツを履いています。その数300本です。女性なら誰もが一度は履いてみたいと思うでしょうね。「クルリンパッ」世界体操選手権のユニフォームではメーカーが苦心した最適素材だけでなくデザイナーコシノの参加が日本代表のやる気を高揚させたことでしょう。

「キラキラ」ではプロジェクションマッピングのステージに折り紙モチーフのペーパードレスが、「チカチカ」では幾何学模様が整然と並ぶデザインが観客の目を引き寄せます。「ヒラヒラ」は心優しい少女たちを思い浮かべます。そして子供たちの想像は「ピョン」と小動物たちの世界へ、それも鳥獣戯画のように擬人化された世界に誘います。圧巻はなんといっても106体のコレクション作品がずらりと並ぶ「ワクワク ドキドキ」でしょう。階段状に設置されたマネキンの一体一体の身につける服飾は、コシノヒロコの全力投球の賜物であることがひしひしと伝わってきます。生地、染色、刺繍、カット、デザイン等々どれをとっても息を呑むような作品の勢揃いです。デザイナーよりアーティストと呼ぶのがふさわしい集大成の作品群です。

お開きは幼稚園児たちによる「スクスククスクス笑顔プロジェクト」参加作品です。大作の連続で肩に入った力が抜け、リラックスして美術館を後にすることが出来、ヒロコ・パワーを得て再びコロナ禍の日常に戻りました。

(2021.8.1)