事業管理者のつぶやき
Chapter136.猫九生、犬は?
市立芦屋病院事業管理者 佐治 文隆
子供の頃、飼っていた愛猫が突然姿を消し、一年後にガリガリに痩せて戻ってきて、「クロ」と名を呼びかけるとミャーとすり寄り、その後はわが家で生を全うしました。このような現象は決して珍しいことではないようで、猫が高所から墜落しても簡単に死なないことも含めて不死身を思わせることから、「猫九生」あるいは「猫に九生あり」ということわざが出来たようです。猫にはたくさんの命があって、何度も生まれ変わることができるという迷信です。英語では「A cat has nine lives.」で、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」にも引用されていることから、西欧由来の言い伝えと思われます。
死後の世界について、宗教的には一般に「他界」と「転生」に大別されるようです。キリスト教やイスラム教は「他界」派が多く、仏教には「転生」派が多い傾向にあります。他界派では人生は一度きりという考えで、生前の行いによってあの世は天国・極楽あるいは地獄になります。一方、転生派は輪廻転生を肯定し、生まれ変わりを認めています。同じ転生といっても、人間や動物や昆虫など種を超えて生まれ変わるとする思想と、同じ種でしか生まれ変われないとする思想もあります。「猫九生」は後者の考えに基づくものです。残念ながら私たち人間には(そして多分動物や昆虫たちにも)前世の記憶がないので、転生の真実を確かめることは困難です。
前世の記憶を持ち続けて転生を繰りかえした犬をテーマにしたアメリカ映画があります。2017年制作の「僕のワンダフル・ライフ(A Dog’s Purpose)」です。8歳の少年イーサンに助けられ、ベイリーと名付けられた野良犬が何度も生まれ変わる生涯を描いています。この犬はゴールデン・レトリバーに始まり、ジャーマン・シェパード、コーギー、セント・バーナードとオーストラリアン・シェパードの混血犬と転生し、性別もオス→メス→オス→オスと変化します。種類も性も呼び名が変わっても、ベイリーの記憶は保たれていて、大の仲良しイーサンのことを忘れません。「イーサンを幸せにするのが自分の役目」(原題のPurposeです)として、イーサンを求めて何度も生まれ変わっては志なかばで犬生を終えるベイリーですが、ついに大人となったイーサンと再会し、バディという名をつけられます。しかも、ある出来事からバディがベイリーであることにイーサンが気づくという、犬好きにとってはたまらないラブ・ストーリーです。愛犬家でなくても、心温まるほのぼのとした展開には癒されるでしょう。この映画の監督ラッセ・ハルストレムは日本映画「ハチ公物語」をリメイクして、舞台をアメリカ東海岸として「HACHI約束の犬(Hachi:A Dog’s Tale)」を作っています。よほど犬が好きと思われます。
2019年には続編「僕のワンダフル・ジャーニー(A Dog’s Journey)」が制作されました。年老いたベイリーはイーサンとハンナ夫妻に愛され、夫妻の孫娘のクラリティ(CJ)と仲良く遊んで過ごしていました。ベイリーに胃がんが見つかり、死を前に夫妻から孫娘の保護を頼まれ、またまた転生を繰り返すことになります。柳の下の二匹目のドジョウを狙った作品と思われ、前作ほどのインパクトはありませんが、コロナ禍で荒んだ気分もほっこり感溢れる作品に慰められます。ステイ・ホームにオススメの連作です。
(2020.10.1)