広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter113.双生児

市立芦屋病院事業管理者 佐治 文隆

複数の赤ちゃんを同時に妊娠することを多胎妊娠といい、胎児が2人の場合は双胎、3人だと品胎、4人だと要胎と称されることもあります。なぜ品胎というかといえば、「品」は「口(くち)」が3つあるからで、同様に「要」は女の上の西の部分に「口」が4つあるからと、まるでクイズのような謎解きがされています。その多胎妊娠の頻度が近年増えています。排卵誘発剤の開発が進んだり、体外受精・胚移植の妊娠率を上げるため複数の受精卵を子宮に戻すなど生殖補助医療(不妊治療)が原因になっていると推測されます。

多胎の中でも最も一般的な双生児についていえば、一卵性双生児の頻度は0.4%つまり1000分娩につき4組の一卵性双生児が誕生し、頻度に人種差は無いとされています。一卵性双生児はもともと一つの受精卵が分裂して生まれたものですから、全く同じ遺伝子型であり、性別はもちろん血液型、DNA認証では判別は不可能で、両者間の臓器移植は拒絶反応を受けることは無いと考えられます。この点で、兄弟姉妹がたまたま同時に生まれてきたと理解できる二卵性双生児とは大きく異なります。それでは一卵性双生児はまったく同一人のような性格や行動をとるのでしょうか。

フランス映画「二重螺旋の恋人(原題:L’Amant double)」は一卵性双生児と思われる瓜二つの双子の精神分析医と関係を持つ女性クロエをめぐる心理サスペンスを描いています。精神科医ポールと恋に落ちたクロエは、街で見かけた恋人そっくりの男性、実は双子の兄の精神科医ルイのクリニックに偽名で診療に通い始めます。外見こそ同じですが優しいポールと真逆で傲慢で荒々しい愛情表現をするルイに惹かれていくクロエですが、観客はポールとルイが双子であることを知らされず、ミステリアスな展開に戸惑い翻弄されます。ただサスペンス仕立てとは言いますが、この映画は原題にL’Amant(愛人)が使われているように、恋人以外の男性と自由奔放に楽しみたい女性の欲望を描いた恋愛映画のジャンルに含まれると思います。

映画の展開でも予想される通り、たとえ先天的には同一個体の形質を持つ一卵性双生児であっても、後天的環境の影響を受けて性格や行動がまったく異なってくる可能性があります。一卵性双生児のおかれた生活環境やライフスタイルは、性格や行動にとどまらず健康にも大いに影響を与えると考えられ、これを科学的に明らかにできれば病気を予防することも可能になり、健康寿命を伸ばせます。「ふたご研究(Twin Research, Twin Study)」とはまさにそのような学問分野で、一卵性双生児間の比較、あるいは一卵性双生児と二卵性双生児の比較を行い、環境因子の影響を評価します。ふたご研究は19世紀後半にイギリスで始まり、欧米を中心に様々な分野で遺伝と環境影響の割合について研究がなされてきました。いま言えることは、環境など後天的な影響で遺伝子の働きが変わってしまい、ひいては病気の発症にまで関わってくることです。

わが国における「ふたご研究」は、大阪大学や慶応大学が熱心に取り組んでいて、それぞれ大阪大学ツインリサーチセンター、慶応義塾大学ふたご行動発達研究センターを立ち上げています。しかし日本の研究の規模は数千人程度と小さく、イギリスの数万人もの大規模データベースに及ばないのが難点です。登録データの一元化とデータベースの拡大が今後の課題です。

(2018.11.1)