広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter106.フラメンコ

市立芦屋病院事業管理者 佐治 文隆

ミナトコウベの旧外国人居留地や異人館街などエキゾチックでハイカラな街並みが、リノベーションされて観光客や買い物客を呼び込んでいます。異人館のある北野町の一角、トアロードのトアホテルの跡地には、神戸外国倶楽部(KOBE CLUB)の瀟洒な建物が付近の景観に趣を添えています。神戸倶楽部は神戸市在住外国人の社交クラブとして1869年(明治2年)に設立されたユニオンクラブを前身とするので、居留地から現在地に移転はしたものの約150年の由緒ある歴史をもっています。倶楽部主催のイベント、フラメンコ・ショーの案内をいただき、会員制クラブに入館できる絶好のチャンスであること、ディナー・ショーで美味しい食事が期待できること、そしてもちろん日本ツアー中のフラメンコギタリスト アルベルト・ロペス(Alberto Lopez)のフラメンコ音楽が聴けることを楽しみに申し込んだ次第です。

ショーは哀愁を帯びたギターの音色で始まりました。クラッシックギターと異なり、薄い板厚から生み出されるフラメンコギター独特の歯切れの良い音がメロディとともに客席に溶けこんでいきます。日本人の著名フラメンコギタリスト沖仁のソロを聴いた時とはずいぶん違う感じを受けるのは、演奏された楽曲の違いか、はたまた演奏者の民族性によるものでしょうか。あるいは今回の日本ツアーのタイトル「Detras de la Verdad(真実の裏側)」の意図するフラメンコの既成概念を覆す目的が効を奏しているのでしょうか。浅学の私には判断できませんが、いずれにしろ観客の心を動かしたことは間違いありません。ショーが進むにつれ、カンタオーラ(女性歌手)の枯れた歌声が加わり、バイラオール(男性ダンサー)が手拍子とともに力強く床を踏みならしてリズムをとって踊り始めます。さらに若手の第二ギタリストとパーカッショニストが音と踊りを一層盛り上げてくれます。

フラメンコといえばスペイン、アンダルシア地方発祥と思いがちですが、ヨーロッパを自由に移動するロマ族の音楽をルーツとして、アンダルシアで融合、発達してきたようです。ギター、カンテ(歌)、バイレ(踊り)が一体化して作り上げるフラメンコは、今もなお進化し続けています。フラメンコ3部作「血の婚礼」「カルメン」「恋は魔術師」の映画監督カルロス・サウロの最新ドキュメンタリー「Jota de Saura(邦題J:ビヨンド・フラメンコ)」は、フラメンコの起源の一つ「ホタ(Jota)」に絞ってダンスを中心に描かれています。予告編を見る限りでは、激しいレッスン、華麗な踊りなど、フラメンコの奥深さを知らしめる作品のようです。

この夜の楽しみの一つ、ディナーは予想どおりスペイン料理でした。タパス(前菜)に生ハム、蛸のマリネ、ピンチョス(トマト・オリーブ・チーズ)盛合せ、アサリのガーリック風味スープ、主菜は海の幸パエリャのカルタファタ包み、スペイン風チキン・シチューと続き、デザートはバルセロナ風アイスクリームでした。食事にもしっかり満足、テーブルに飾ってあった赤いバラを思わず口に咥えて踊り出しそうになるほどでした。

(2018.4.1)