事業管理者のつぶやき
Chapter5. テレビドクター
市立芦屋病院 事業管理者 佐治 文隆
この秋、読売テレビの超長寿番組のひとつ、「テレビドクター」が姿を消しました。昭和50年10月5日、大阪大学医学部の山村雄一教授(のちに大阪大学総長)の「家庭と健康~現代医学への期待~」を皮切りに始まった番組は、34年間1742回を数え、平成21年10月11日に幕を下ろしました。
「テレビドクター」が始まった時代の読売テレビは、エログロ番組、低俗番組を放送するテレビ局として、決して評判は良くなかったようです。(当時の読売テレビ関係者の言葉です)その中で、地味な健康と医療の番組を立ち上げることは大変勇気がいったことと思います。なんでも「視聴率も利益も関係ない」「テレビ局の良心」と言える番組作りを、と局の上層部が応援して生まれたそうです。私自身も数度出演したことがありますが、わずか15分足らずの番組とはいえ、入念な事前のインタビューやわかりやすいフリップボード作りなど、文字通り良心的に真面目な取り組みがなされていました。制作を通じて知り合ったテレビ局の方やインタビュアーの方達から、本人や家族の健康相談を受けることもしばしばで、視聴者だけでなく制作者にとっても有意義な番組だったようです。
テレビドクターの放送時間は毎日曜日早朝でしたが、出演後まもなくは「テレビドクターを見ましたよ」と声をかけられることもしばしばで、休日寝坊せずに結構多くの人が見ていることを知りました。隠れた人気番組だったのかも知れません。「たけしの本当は怖い家庭の医学」などゴールデンアワーに放送される健康バラエティ(?)番組も、それはそれでいいのかも知れません。しかし、真正面からその道の専門医にわかりやすい解説を求める姿勢は、どのチャンネルをひねってもいつも見るタレントが、おなじみのギャグを連発する番組が多い中で、得がたいものでした。
番組終了に際して作成された「テレビドクター歴程」が送られてきました。初回からのテーマ、出演ドクター、担当者の一覧が掲載されています。私の恩師、知人、友人達の名前も沢山見られます。まえがきで、チーフプロデューサーだったK氏は「お笑い番組一色の時代に、会社に貢献が無いとの理由で終了に追い込まれた」と述べておられます。視聴率優先、効率追求の時代の流れに抗えず、迎えた終焉に対する無念の想いが伝わってきます。
マスメディアとくに民放テレビ番組の低俗化は民放自滅を生みかねません。人口減少、景気後退に伴う広告料の収入減に加えて、デジタル化や立体テレビ放送化など今後予測される負担増が民放テレビ局の統廃合を生む可能性があります。ルパート・マードック氏による米国メディア寡占、メディア王ベルルスコーニ氏のイタリア首相就任などをみて、マスメディアの寡占化による世論形成、誘導を危惧するのが、私の杞憂でなければよいのですが。
(2009.11.4)