広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter3. 笑い

市立芦屋病院 事業管理者 佐治 文隆

関西人は「お笑い」が好きなようで、今や「よしもと」はお笑いの代名詞となりました。笑いが免疫能を高め、ストレスの発散ひいては健康の保持に貢献することは、学会の定説となっています。クリニクラウン(ベッドサイドの道化師)は入院中の子ども達に笑いをもたらし、ユーモア溢れる小話は病に苦しむ大人達にひとときの清涼剤となります。

ユーモアの語源は、医学用語のフモール(体液)で、中世以前の医学では四つのフモール(血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁)の配合によって体質・気質が決まるとされていました。その意味では血液型と似たところがあります。人間の特性をあらわしていたフモールが、時代が下ってイギリスで「笑い」を生み出す源として「ユーモア」が使われるようになりました。「ユーモア」という言葉の発祥地はイギリスですが、ヨーロッパの国々ではそれぞれ国民性の違いが反映されているとは言え、ユーモアで共通される概念が存在しています。


ユーモアなら日本人も負けていません。上方落語の小咄や江戸小咄など笑いのタネは無数です。小咄を五七五に凝縮したのが川柳でしょう。私の大学の先輩で、淀川キリスト教病院ホスピス病棟の開設者である柏木哲夫先生は、ターミナルケアの実践者として有名です。先生が若い頃私の前任地の国立病院に勤務されたご縁もあり、私から講演をお願いするなどのおつきあいがあります。柏木先生は、その著書「ベッドサイドのユーモア学 ―命を癒すもうひとつのクスリ」(メディカ出版)や「癒しのユーモアーいのちの輝きを支えるケア」(三輪書店)などを通して、ユーモアの効用を唱えておられます。とくに川柳については、俳句と違って「四季(死期)を考えなくていい」(あるがん患者さんの言葉だそうです)とオススメです。先生の著書で紹介されている患者さんの作品には、医療関係者にとって耳の痛いもの、思わずニヤリとするもの、はたと膝を打ちたくなるものなど様々です。

お守りを 医者にも付けたい 手術前
寝て見れば 看護婦さんは 皆美人
病院を 三軒回る ほど元気
串刺しの 心と書いて 患者です

次の川柳は柏木先生自身の作です。

脳外科に 頭の切れない 医者もいる

幸いなことに、当院には脳外科もなければ、脳外科医もおりません。
柏木先生は毎日新聞朝刊に連日掲載されている「万能川柳」の常連投句者です。万能川柳にも医療をテーマにした句が少なからず採用されています。今朝のものでは、

失敗に 多くを学び たいと医者 (仙台 イタチ男)
主治医には サプリのお陰 とは言えず (八尾 福沢 嘉子)

がありました。ちなみに柏木先生は(茨木 ほのぼの)の柳名で投句されています。

幸せは スープがしっかり さめる距離

最近の先生の万能川柳掲載句です。


闘病生活はもちろんのこと、この世はストレスに満ちています。ストレスへの人間の心の対応をコーピング(coping)と言いますが、ユーモアはそのコーピングの良い手段だと説いておられます。終末期医療を支えて来られた柏木先生にとっても、ユーモアはストレス発散の最高の手段なのだと思います。

(2009.9.24)