芦屋病院コラム
あなたと大切な人のために~子宮頸がんとその予防について~
産婦人科 宮田 明未
子宮頸がんは毎年多くの女性が罹患する深刻な病気ですが、HPVワクチンによる予防が可能になってきました。小学6年生から高校1年生までの女性は定期接種の対象で、この時期に接種することで高い予防効果が期待できます。15歳未満の接種開始であれば2回の接種で完了できるため、負担も軽減されます。
現在高校2年生~1997年(平成9年)生度まれ(26から27歳)でワクチン未接種の方はキャッチアップ接種として2025年3月末まで無料で接種できます。
この機会に皆様に子宮頸がんという病気を知っていただき、接種について考えて頂える一助となればと思います。
「子宮頸がん」は身近な病気です
子宮頸がんは子宮頸部に発生する悪性腫瘍で、日本で毎年新たに約1万人が罹患し約3000人の方が亡くなっています。そして、20-30代の女性が罹患する「がん(上皮内癌を含む)」の中では最多となっていてその頻度は近年増加傾向です。
市立芦屋病院でも子宮頸がんの診断に至る患者様が後を絶たず、前がん病変である異形成や上皮内癌治療のための手術は毎月行っている現状です。また、子宮頸部細胞診異常の精査やフォローアップで受診される患者様はほぼ毎日のようにおられます。
これほど身近に存在し、誰が罹患してもおかしくない子宮頸がんについて知って頂きたく本コラムを執筆致します。
HPV(ヒトパピローマウイルス)感染が原因です
子宮頸がんの約95%はHPV(ヒトパピローマウイルス)感染が原因で発症します。
HPVは自然界に200以上の型が存在しますが、そのうち発がん性のあるハイリスク型HPV約15種類が子宮頸がんと強く関連しています。生涯に80%以上の女性がHPVに感染すると推計されており、誰でもハイリスクHPVに感染する可能性があります。
感染したウイルスは自然免疫で排除される場合が多いですが、数年~数十年にわたり感染が持続すると前がん病変を経て子宮頸がんの発症につながることが明らかとなっています。 ウイルス感染、前がん病変や初期の浸潤がんでは自覚症状がない場合が多いため、早期診断には子宮頸がん検診(子宮頸部細胞診やHPV検査)が必要です。
子宮頸がんは予防できる時代になってきました
長年、子宮頸部細胞診による早期発見・治療はできても発症を防ぐ方法がなかった子宮頸がんですが、ハイリスクHPV感染を防ぐワクチンにより発症を防ぐことができるようになってきました。
世界では2006年にHPVワクチンが製品化されアメリカ、オーストラリア、カナダ、ドイツ、フランスなどでワクチン接種事業が開始されました。2023年時点で4価ワクチンは130以上の国で、9価ワクチンは80以上の国と地域で承認されています。
早期より国をあげて接種に取り組んでいる各国から、ワクチン接種がハイリスクHPV感染率の減少、子宮頸部異形成(前がん病変)発生率の減少、浸潤子宮頸がんの罹患率の減少につながる事が報告されるようになってきています。スウェーデンにおいて30歳までの浸潤子宮頸がん罹患について、17 歳未満でワクチン接種を開始した女性では88%の減少、17歳~30歳で接種を開始した女性では53%の減少がみられ、HPV ワクチンの浸潤子宮頸がんに対する高い予防効果が示されました。デンマーク、イギリスにおける調査でも、HPV ワクチン接種により大幅に浸潤性子宮頸がんのリスクが減少することが示され、特に17歳未満の若年での接種が有効であることがわかるとともに、それ以降の年齢での接種も一定程度効果がある事が明らかとなりました。
日本の状況
日本においても2010年より公費助成によるHPVワクチン接種促進が開始、2013年より2価・4価ワクチンによる定期接種事業が開始されました。しかしその後、「様々な体の痛み」「けいれん」「運動障害」といった症状の報告があり、ワクチンとの因果関係や発生頻度について明らかになるまで積極的勧奨が控えられることになりました。
その後の国内外の調査により、ワクチン接種歴のない女性においても同様の症状を認める方がおられる事、接種後に有意に頻度が上がる重篤な症状や疾患は明らかでない事が示されました。
また、上記のようにHPVワクチンの効果を示す研究が増えてきた事、因果関係の有無にかかわらず接種後に出現した症状の回復に向けた治療・支援体制が構築された事より、2022年4月から積極的接種の推奨が再開されました。2023年4月からは9価ワクチンも公費接種の対象となりました。定期接種の対象年齢(小学6年生から高校1年生まで)に9価ワクチンを接種すると、88%の子宮頸がんを予防できると考えられます。
「予防接種ストレス関連反応」をご存じですか?
近年、WHOよりワクチン接種ストレス関連反応(ISRR:Immunization stress-related response )という概念が提唱されるようになりました。HPVワクチンに限らないワクチンの接種前後に見られる急性反応としての頻脈・手足のしびれや、めまい・過換気・失神等、そして、接種後の遅発性反応としての様々な症状が含まれています。 HPVワクチンの成分自体と「多様な症状」の因果関係は証明されていません。 ワクチン接種以外にも疼痛の誘因は日常生活の中に多く存在するため、疫学調査においては疼痛が引き金となる「多様な症状」は必ずしもワクチン接種者に多く認められることはないと考えられています。しかし、ワクチン接種によるストレスが様々な反応を引き起こす可能性については留意する必要があり、ワクチン接種前後に生ずる不安や恐怖感等を極力取り除けるよう、本人やご家族が不安に感じる点がある場合には担当医が丁寧に説明いたしますのでご相談いただければと思います。
最後に
どんなワクチンであっても、ワクチンには有効性(ベネフィット)と副反応(リスク)の両方があり、ベネフィットがリスクをはるかに上回る場合に推奨されます。HPV ワクチンが国際的に広く推奨されているのは、ベネフィットがリスクをはるかに上回るという科学的根拠に基づいています。
接種をうける本人と家族、医療者の双方が疾病予防効果というベネフィットと副反応のリスクの両面を踏まえ、接種をするかしないかを1人1人選択する機会を持って頂くことが重要と考えます。
■芦屋病院産婦人科では火曜午後、金曜午後に「予防接種外来」を開設しています。お気軽にお問い合わせください。
<より詳しく知りたい方へ>
・芦屋市ホームページ: 子宮頸がん予防(HPV)ワクチン
https://www.city.ashiya.lg.jp/kenkou/sikyukeigan.html