広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter31. 龍生九子

市立芦屋病院 事業管理者 佐治 文隆

職場では白衣を着ることが多い私にとって、ネクタイは自己主張が出来るアイテムの一つです。幾何学模様のネクタイも好きなのですが、動物柄も少なからず持っています。その中の一つに、数々の動物が楽しげに遊んでいるコミカルな図柄のものがあります。前任地の病院で私がタイ王国の国立病院と姉妹病院の提携を結んだご縁から、昨年来日された病院管理者からプレゼントされた品物で、言うまでもなくタイ・シルク製品です。動物柄に見入っている私に、これは十二支をあらわす動物たちです、と説明がありました。そう言われればなるほど何種類もの獣を散りばめたパターンです。十二支は中国や日本など漢字圏に特有のものと思っていましたが、漢字を使わないタイやベトナムでも十二支と同様のものがあるのですね。ただ使われる動物に若干の違いがあるようで、タイでは未(ひつじ)は山羊、亥(いのしし)は豚に変わっています。また、私のネクタイには十二支に加えて象が入っているのが、いかにもタイらしくてご愛敬です。

今年の干支の「辰(竜・龍)」については、漢字圏、非漢字圏を問わず十二支に含まれています。しかも龍だけが想像上の動物で、他はいずれも実在する生き物ばかりです。古来中国では、龍は水から連想される雨、雲、雷を象徴するものとされ、龍には水神の性格を与えていると言います。そのため架空動物である龍の頭を屋根に置くことにより、自然の脅威から守ってくれる象徴であるとともに、恐ろしい火災を消す力を持つ存在としてあがめたのでしょう。琉球王朝時代に中国と交易の深かった沖縄首里城の屋根に龍頭があるのも納得されます。日本の城の天守には魚の反り返った形で鯱(しゃちほこ)が飾られますが、これもまた水に深い縁があることは言うまでもありません。

昨年は、3月に東日本大地震による大津波、9月に台風12号により紀州大水害と、水神さまの龍に大暴れされた一年でした。今年は、龍は龍でもドラゴン、それも「ネバー・エンディング・ストーリー」に見られる白いドラゴンのように、人間に優しい龍が活躍する年であって欲しいと切に願います。

龍は人智を超えた権威の象徴として、畏怖の念を以て迎えられていますが、龍には子供たちがいて親龍を助けて人間世界に親しまれています。一説には九子、あるいはそれ以上いるとされています。面白いことに龍の子供たちは親とはまったく似ておらず、その上それぞれが全然違う姿と性格を持っているそうです。たとえば亀に似た形の「贔屓(びき)」は重いものを負うことを好み、縁の下の力持ちのような働きをします。「龍生九子」は兄弟であっても性格が違う意味の四文字熟語ですが、各々が得意技を生かして親を助けるとされます。

病院という成龍には、多数の子龍が存在します。医師、看護師、薬剤師、放射線技師、臨床検査技師、理学療法士、言語療法士、臨床工学技士、管理栄養士、診療情報管理士など、市立芦屋病院で直接医療に携わる兄弟姉妹だけでもざっと数えて九子を超えます。総務課事務や医事業務、あるいはコンピューターのシステムエンジニア、調理師、電気技師などの職員、さらにはボランティアなど多数の子供たちがそれぞれの得意技を生かして親を助けています。龍の子供たちのチームワークこそ「患者中心のチーム医療」の原点であり、根幹をなすものと私は思います。

(2012.1.1)