広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter142.清明 NEW

市立芦屋病院事業管理者 佐治 文隆

春です。若葉が萌え、蕾が開き、鳥が囀る季節の訪れです。「清明」とは万物が清らかに生き生きとするこの季節、二十四節気のひとつです。この時期の日本の夜明けの表情はとても豊かに表現されます。まず夜明け直前には「暁(あかつき)」が、そして東の空に明るさがさす「東雲(しののめ)」が、しだいに美しいグラデーションをつけて明るさが増す「曙(あけぼの)」に変わり、やがて「朝ぼらけ」を迎えて空はほのかに明るくなり、すっかり夜が明けて「朝(あした)」を迎えます。

新芽、若葉が元気を出すのもこのシーズンです。「みどり立つ」というのも新芽が勢いよく上に伸びていく様子を現し、艶のある若々しさを意味します。「みどりの黒髪」と言われる所以です。因みに幼児のことを「みどりご」というのも、これから勢いよく成長する過程の嬰児だからこそ名付けられたのでしょう。「言葉」「言の葉」の「葉」も草木の葉に喩えたものだという説があります。「言(こと)」と「事(こと)」は同源で、前者は言葉、後者は行為を意味していて、「言」として表現すると「事」が実現すると信じられていたそうです。まさに有言実行です。草木が葉を茂らせるように、人も言の葉によって自分を表現し、夢を叶えていくのです。

花といえば桜、「お花見」は「桜の花を愛でる」ことを意味します。花が一面に咲くと夜でも「花明かり」で辺りがほの明るくなり、夜桜の美しさをさらに引き立たせる篝火が「花篝(はなかがり)」です。日中でも空が少し曇れば「花曇り」、気温が下がれば「花冷え」、あいにくの「花に嵐」で桜の花びらが川面に散ると「花筏(はないかだ)」が流れ、すべてが「桜ファースト」のわが国では桜専門の樹木医もとくに「桜守」と呼ばれて大事にされます。 「春告鳥」が鶯(ウグイス)であることに異存はありません。たどたどしい鳴き声がだんだん上手になって「ホーホケキョ」と自慢げに鳴くのを聴くと思わず頬も緩みます。鶯と混同されるのがウグイス色の目白(メジロ)です。文字通り目の周りが白く、可愛い声で鳴きます。巣立ちの頃には押し合いへし合いくっつきあって枝にとまることから、密になるのを「目白押し」と言うようになったそうです。天空の雲間から賑やかに囀りが聞こえるのは雲雀(ヒバリ)です。姿形は地味な鳥ですが、美しい声で私達を元気づけてくれます。

昨年から今年にかけて多数の人々がコロナ禍に苦しみ、幸い感染こそ免れても職を奪われ、収入を絶たれるなど、「この世は闇」と感じてきました。でもきっと夜明けはやって来ます。明るい兆しのひとつはワクチン接種です。先月からは医療従事者を対象に、今月からは高齢者を対象とする新型コロナウイルス・ワクチンの接種が始まる予定です。日本人におけるワクチンの接種効果、副反応の有無など、まだまだ判らないことも多い中で、少なくとも現時点での最善の対策と考えられます。今はコロナ禍の闇からやっと暁を迎えたところくらいでしょうか。国民の大多数が免疫を獲得して、少しでも早く朝を迎えたいものです。為政者は緻密な接種スケジュールを立てて、「有言実行」に努めていただきたいものです。
コロナ禍でわが国の危機管理の問題点が炙り出されました。効率だけを追求する医療制度がパンデミックに対していかに脆いかも露呈しました。感染症の拡大は個人のみならず国家的規模で経済的大打撃を与えることは身に染みて経験したところですが、私が痛感したのは演劇、演奏会、美術展、スポーツなどが軒並み休止されたことによる精神的飢餓でした。たとえ生命が維持できても、文化・芸術が社会にとって必要不可欠であることを実感しました。ヒトはやはり「ホモ・ルーデンス」(ヨハン・ホイジンガ1938)なのです。

(2021.4.1)