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事業管理者のつぶやき

Chapter134.万葉の鳥たち NEW

市立芦屋病院事業管理者 佐治 文隆

毎日小学生新聞は小学生を対象とした日刊新聞としてユニークな存在です。1936年創刊の大毎小学生新聞を前身とし、1943年に姉妹紙の東日小学生新聞と合併して現在の名称になったそうです。私も小学校高学年になって大人の新聞が読めるようになるまでは、もっぱら「毎小」の愛称で呼ばれていたこの新聞を愛読していました。最近の毎小にコラム「日本語どんぶらこ」を連載する国語辞典の編纂者、飯間浩明は「ことばハンター」の異名を持ち、次々と気になる日本語、新しいことばを採集する編集者です。 新著「日本語をつかまえろ」(毎日新聞出版)は豊富な知識をもとに日本語の面白さをわかりやすく説明し、イラストレーター金井真紀のほのぼのする挿絵も相俟って楽しい世界に引き込まれます。

「令和」の元号の出典となった日本最古の歌集「万葉集」について、飯間さんは大学時代に先生から「万葉集が読めない人は、日本語の研究はできません」と言われたことから発奮し、万葉集を読破したそうです。全部で約4500首ある歌の2割くらいは暗記したといいますからすごいですね。万葉集の中には私たちに親しみのある動物もたくさん登場します。飯間さんによると多いのは鳥で、ホトトギス、ツル、ガン、チドリなどです。万葉集はすべて漢字で書かれているので、例えば「思ひつるかも(思ったんだよ)」ということばは「念鶴鴨(おもいつるかも)」と書かれていて、鳥を表す漢字を使って言葉遊びに興じているそうです。オシャレ、いやダジャレですかね。

万葉集は8世紀奈良時代末期に成立したと見られ、その編纂には大伴家持が関わっていたと言われます。三十六歌仙の一人大伴家持の代表的な歌といえば、万葉集にこそ含まれていませんが、新古今集の「かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞふけにける」でしょう。小倉百人一首にも含まれる有名な和歌です。カササギを詠った歌は不思議なことに万葉集には登場しません。カササギはハトくらいの大きさの尾の長い鳥です。色は白黒模様でよく目立ちます。カラス科ですがカラス属ではないので、カラスの親類みたいなものです。中国ではカササギは吉兆とされ、七夕の夜、織姫と彦星のために天の川に橋をかけるのもカササギとされます。韓国でも幸運をもたらす鳥として人気があり、韓国の国鳥でもあります。ヨーロッパではそれほど人気のある鳥とはみなされず、むしろロッシーニのオペラ「泥棒かささぎ」では悪さをする鳥として登場しています。日本ではカササギは佐賀県辺りでしか生息していないようです。

生息地によっては人気者のカササギに比べてカラスの方はどちらかといえば嫌われ者です。(松原 始「カラスは飼えるか」新潮社)何と言ってもカラスは生ゴミを散らかします。廃品回収・処理のスカベンジャーというカラスの習性からすれば当たり前の行為も、早朝の道路に生ゴミを散らかし回るカラスの姿は可愛くありません。全身真っ黒で悪魔の使いのようです。時には人間の頭に蹴りを入れてきます。それにカラスは食えません。いや、食べることはできてもかなりまずいと思われます。(塚原 直樹「本当に美味しいカラス料理の本」SPP出版)しかし、これらのカラスの性質はカラスが意図的にヒトに害を加えようとしているわけではなく、それなりの理由があると、カラスを愛する動物行動学者の松原さんは弁護しています。古代中国や古代エジプトでは、カラスが夜明け前から飛んでくることから「夜明けを告げる聖なる鳥」と敬われていたと、カラスの名誉のために付け加えています。ちなみにカラスは飼うことはできません。

(2020.8.1)