広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter13. 女人禁制

市立芦屋病院 事業管理者 佐治 文隆

芦屋病院の看護部長は歩くのが好きで、毎日の通勤も坂道をものともせず、43号線より南の自宅から徒歩で往復しています。その彼女が健脚を活かして、奈良県南部の大峰山に登ってきました。大峰山系は古来修験者の道場として有名で、とくに大峯山と称する山上ヶ岳は頑なに女人禁制を守る山伏の修業の場で知られています。近年の大峰山の話題といえば、女人禁制の開放をめぐっての論議のようです。女性による登頂の試みは百年以上前からされていたようですが、男女共同参画審議会の設置等、男女の性差別の撤廃をめぐる議論とともに大峯山も女性差別の象徴とされ、世界文化遺産登録にあたって女人禁制の開放を求める運動が盛んになりました。しかし、今も山中には約10km四方が女性の立ち入り禁止で、看護部長がご来光を拝むために夜半から登山したのは、俗に女人大峯と呼ばれる稲村ヶ岳だったそうです。

私が大学に勤めていた頃、研究の手伝いをしてくれていた女性が、奈良県の某有名神社の神主の一人息子と結婚しました。結婚式は橿原神宮で行われ、なんと新郎は衣冠束帯、新婦は十二単で百人一首の絵札を見るようでした。披露宴が型どおりあったわけですが、祝辞は新郎側の主賓、来賓、友人の順で始まり、新婦の主賓のお祝いは、新郎側親族の挨拶の後でした。私はもちろん新婦の客として招待されていたわけですので、お祝いを述べるにあたり、「いにしえの時代から高天原は天照大神が支配し、わが国は女性優位の世界でした」と始めました。会場は一瞬しーんとなりましたが、新婦側から拍手こそなかったものの「してやったり」の空気が流れました。新郎親族の困惑した顔が今でも目に浮かびます。

私の前任地で、歴代の院長は地元の社交・親睦団体であるクラブに入ることになっていました。しばらくするとクラブの委員会の世話役になるように言われ、担当したのが会員増強委員会でした。このクラブに女性会員が一人もいないことに違和感を覚えていた私は、今年度の目標のひとつに女性会員の入会を挙げ、委員会の賛同を取り付けました。次は全会員の賛成を得なければなりません。欧米はもちろんのこと国内のクラブにおける女性会員の比率をデータとして示し、ガバナーと呼ばれるエライさんにお越しいただき、会員増強にはいかに女性会員に入会してもらうかが大事であると講演までしてもらいました。その結果はどうだったでしょう。「我がクラブは発足以来女性会員がいない。その伝統を破る必要はない」と、私の試みはあえなく失墜しました。

それでも、それでも、世の多くの男性は女性に頭が上がらないのではないでしょうか。その女性たちがいつまでも健康で美しいことは、男性にとっても元気の源になるのではないでしょうか。今月7月25日に市立芦屋病院が提供する市制70周年記念講演会「ウイメンズヘルスケアあしや~いつまでも健康で美しく」に参加して、世の中を元気に明るくしてください。女性だけでなく男性も足を運んでください。奥様、お嬢様、お母様から見直されること、請け合いです。

(2010.7.1)