広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter102.エゴイズム NEW

市立芦屋病院事業管理者 佐治 文隆

今年もまもなく年の瀬を迎えます。振り返ってみると2017年ほど世界のあちこちの国で自己主張が強調された年は近来まれであったようにも思えます。米国トランプ大統領の就任は、選挙スローガン「Make America great again(アメリカを再び偉大に)」のもとに、アメリカ・ファーストと自国の経済的利害を政策の中心に据える動きを加速させました。イギリスもまた国民投票によるEU(欧州連合)離脱決定を受け、メイ首相はその具体的スケジュールに着手しています。欧米だけではありません。スケールの違いこそありますが、アジアにおいても南シナ海、東シナ海、日本海、オホーツク海などの島々が各国のエゴむき出しの領有権争いにさらされています。歴史的事実を軽視し、既成事実作りに用いられるものに名称があります。たとえば南沙群島、スプラトリー諸島(Spratly Islands)はそれぞれ中国名、アメリカ名で呼ばれる南シナ海の同一の諸島です。このほかタガログ語やベトナム語でも命名され、日本語でも新南群島と呼ばれた時期もありました。東シナ海の尖閣諸島、日本海の竹島もしかりです。

まるで動物のマーキングのように、古来から存在したモノに命名して所有権を主張するのは今に始まったことではありません。18、19世紀のヨーロッパからは世界各地に軍艦を派遣し、見つけた土地にかたっぱしから名を付けて自国領としています。「サン・ローラン(セント・ローレンス)川」は「聖ローランの川」、「ルイジアナ」は「ルイ14世の国」であることからフランスの領有地宣言であったことが容易にわかります。大航海時代のイギリスは諸国の文化財を蒐集し研究、大英博物館はその集大成の一つでしょう。動植物の採集も含め、これらはあらゆる学問分野の発展に貢献しましたが、帝国主義と密接に結びついていたことも事実です。ともあれ大国の覇権主義が懸念される昨今、今一度歴史を振り返り冷静な判断が望まれるところです。

侵略だけでなく交易などを通した各国の交流は固有文化にも影響を与え続けてきました。わが国がいい例です。東洋の島国ですが、多くは中国大陸、朝鮮半島から書、絵画、生活用品など影響は計り知れません。時にはシルクロードを通して遠くヨーロッパ文化も移入されました。もっとも雪舟の日本画はどう見ても中国の風景画です。中国への留学僧であった雪舟にとって水墨画は宋代の作品以外は考えられなかったのではないかと指摘されています。つまりその土地固有のモノは他国の環境ではどうしても馴染まないことがあります。ちょうど絶品のフランスワインは、かの地でないとその真価がわからないと言われる所以です。一方では江戸時代の浮世絵は西洋絵画の影響を受け大発展を遂げたといいます。浮世絵の透視遠近法的表現や西洋の肖像画に近い役者や美人画がまさにそうです。

本稿の参考文献の一つ、「虫から始まる文明論」(奥本大三郎・集英社インターナショナル)に日本人の眼は接写レンズと述べられています。だからこそ花や虫の細部を見つめて描写し、デザイン化しました。その最たるものが家紋です。そしてルイ・ヴィトンはモノグラムとしてハンドバッグなどにアレンジして日本で大流行させました。家紋を複数個並べるなど日本人にとってはとんでもない発想ですが、西洋人デザイナーの手によって抵抗なくわが国で広まったのです。

(2017.12.1)