広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter100.秋に想う NEW

市立芦屋病院事業管理者 佐治 文隆

実りの秋です。稲穂にかぎらず、たわわに実る果実を目にする機会が多いのもこの季節です。日本列島がもっとも爽やかで過ごしやすく、心身ともに快適さを感じやすい時期を迎えました。あちこちで運動会や体育祭が開かれるのも、この気候のもとで「健全な精神と健全な肉体」を養う目的でしょう。ことわざで俗に言う「健全な精神は健全な肉体に宿る」は必ずしも正しくありません。健全な肉体イコール健全な精神の持ち主とは限りませんし、身体を病んでいるからといって必ず精神も病むわけではありません。ここは原典となった「賢い人間が神に願うのは、健全な精神と健全な肉体のみ」(古代ローマの詩人 Juvenalis ユウェナリス)の詩句に返るべきでしょう。

日本の四季を支配しているのは4人の女神といわれ、秋は竜田姫(たつたひめ)です。都を囲む山々のうち、東の山から南の山、西の山、北の山と時計回りに、それぞれ春、夏、秋、冬の神が住むという中国に故事に基づいていて、平城京の西には竜田山があり、竜田姫が住んでいました。竜田山は現代では存在しませんが、竜田川の名が奈良の都時代の名残をとどめています。

 ちはやぶる神世も聞かず竜田川 からくれなゐに水くくるとは
 嵐吹く三室の山のもみぢ葉は竜田の川の錦なりけり


いずれも紅葉をテーマに百人一首で取り上げられています。まさに秋の女神で、染色と織物が得意であった竜田姫が織り上げた錦のような美しい色彩の野山が詠まれています。

「男心と秋の空」は、男性の女性に対する愛情は秋の空のように変わりやすいと言う意味です。ここでいう「秋」は「飽き」に通じる掛け言葉です。日本語のこのことわざに匹敵する英語のことわざは少なく、強いて言えばシェイクスピアの「空騒ぎ」に出てくる”Men were deceivers ever.”(男はいつも詐欺師であった)でしょうか。ある女子大で「◯◯と秋の空」の空欄を埋める問題で、「男心」より「女心」の方が圧倒的に多かったといいます。確かに「女の心は猫の眼」とも「秋の日和と女の心、日に七度変わる」ともいいます。英語でも”Women are as wavering as the wind.”(女は風のように心が定まらない)、”A woman is a weathercock.”(女は風見鶏)といわれます。いま「女心と秋の空」の方が多数派になったのは、日本女性の欧米化が進んだのかもしれません。もっとも明治の文豪島崎藤村は詩集「若菜集」で、男心を「強く吹く風」に例え、女心を「風に吹かれる草」と見立てて、風のような男心も草のような女心も、方角はその日その日で変わると詠っています。あなたはどう思いますか。

さて「柿が赤くなると医者は青くなる」といいます。青かった柿の実が赤く色づいてくる頃は気候が良く、医者にかかる人が減るところから生まれたことわざです。類似の言葉に「蜜柑(みかん)が黄色くなると医者が青くなる」「柚(ゆず)が色づくと医者が青くなる」「橙(だいだい)が赤くなると医者が青くなる」があり、いずれも果実が熟してくる良いシーズンは病人が減って医者の出番がなくて困ることを指します。英語でも”An apple (tomato) a day keeps the doctor away”(1日1個のリンゴ(トマト)は医者を遠ざける)の表現があります。こちらは栄養価の高いリンゴやトマトを食べる人は病気になりにくいことを意味します。病院経営にかかわる身にとっては受診者が減るのは辛いところですが、なんといっても市民の健康がまず一番だと想う秋です。

(2017.10.1)