広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter4. JALとJR

市立芦屋病院 事業管理者 佐治 文隆

JAL(日本航空)が経営不振で迷走飛行中です。経営再建に向けて、不採算路線の切り捨て、優良子会社の身売りを模索しています。さらに、世界最大の航空会社である米デルタ航空との資本提携を模索したかと思えば、元々同じ国際航空連合「ワンワールド」で提携関係にある世界第二位の航空会社の米アメリカン航空に出資交渉を行うなど、海外の航空資本の傘下に入ることも厭わず、ナショナル・フラッグ・キャリアのメンツを捨てて、なりふり構わぬ行動に出ています。

一方、政権交代後の国交相直属のタスクフォースは、企業年金の大幅減額(半減?)、人員整理などの厳しい条件を突きつけ、これらの計画が実行されることを条件に銀行団からの融資や債権放棄を引き出そうとしています。どのように決着するかは判りませんが、OBも含めて従業員はもちろんのこと、利用者、納税者に大きな犠牲を強いることになるのは間違いありません。


1953年、国民の期待を担って、半官半民の特殊法人として発足したJALは、その後1987年に民営化されたとは言え、日本を代表する航空会社でした。海外の空港で目にする「ツルのマーク」に誇りと郷愁を覚えた在外邦人も沢山いました。今日のJAL衰退の理由は、官製会社の親方日の丸体質、職種別労働組合の利己主義、日本エアシステムと統合後の混乱、不採算地方路線の拡大等々が挙げられます。続々と生まれた地方空港と大都市を結ぶ路線誕生には、地元住民、政財界の圧力があったことは想像に難くありません。


日本国有鉄道(国鉄)は、1987年JR七社に分割民営化されました。民営化後22年を経て、駅員をはじめ国鉄時代のお役所的体質は表面上かなり払拭されたように思われます。新幹線はもちろんのこと、神戸線など近郊線のダイヤも便利になり、車両も快適になりました。エキナカ商業施設の活用や駅周辺保有地の開発など柔軟な経営方針で好調な業績を上げている3社のJRを見ると、民営化はひとまず大成功かな、と思います。

一方、JR北海道、JR四国、JR九州の三島会社とJR貨物は未だ政府が株を保有し、JR九州を除いては上場の目処も立っていません。営業成績の良い3社にしても、過疎地路線は廃線あるいは第三セクター化などで採算性重視を貫いています。地方からは高速道路に乗客を取られ、人員削減、車両数削減などコスト減を重ねて、悪循環に陥って悲鳴が聞こえてきます。高収益につながる利便性追求が福知山線脱線事故を引き起こしたことは記憶に新しいところです。


スケールこそ大きく異なりますが、私にはJALやJRの姿が自治体病院と重なって見えます。親方日の丸の公務員体質、職種毎の利己的な主張、不当な要求に屈しての不採算部門の拡大などJALを彷彿とさせる公的病院も少なくありません。

ではJR型が良いのかと言えば、決してそうではありません。利益追求を錦の御旗に、公的病院の使命である不採算医療の切り捨て、利潤重視、あるいは人員や機器の削減は医療においては、やってはならないことです。JALやJRをお手本に、良いところは早く取り入れ、悪しきところは少しでも早く排除して、バランスの取れた病院運営を行いたいと思います。そして、JALやJR同様に、いやそれ以上に「安全第一」を心がけて医療を行います。

(2009.10.20)